アルコール依存症からの回復(体験談その5)
AAセクシュアルマイノリティのメンバー、Gさんの体験談です。
『お酒の飲み始めは、高校3年生のクラブの追い出しコンパや、大学のクラブやクラスでのコンパでした。 でも、吐いたりして、その後はそれほど飲みませんでした。 あることがあって、大学を1年で中退し、勤めたアルバイト先で飲み会に出るようになったら、今度は面白いように飲めるんです。 普段はおとなしい人間の僕が、飲んだら非常に明るくなって、みんなも「面白い、面白い」と喜んで。 当時、鬱々としていたので、飲み会には必ず行くし、家でも飲んで、たちまち毎日飲むようになりました。 ゲイの自分は、(新宿)2丁目には本を買いに行くぐらいでしたが、はじめてゲイバーに出てみました。 最初は怖かったけれど、行ってみれば別にどうということはない。 開放された気分で、飲む魅力にとりつかれました。 行きつけのバーが、飲め飲めという雰囲気で、自分は20歳過ぎ、世の中はバブルで景気もよく、じゃんけん一気とかしながらどんどん飲みましたね。 そのころからブラックアウトという、途中で記憶が飛んだりすることも起こりはじめました。 二日酔いはひどかった。 吐き気はしなかったけれど、頭はガンガンするし、気持ち悪いし。 でも、仕事が夜なので、夕方までには直るし、明けの晩や非番の夜は2丁目へ。 とにかく、ワーっと騒げるのが嬉しいし、出会いも期待していました。 職場の飲み会で終電まで飲んで、分かれるふりをして2丁目へ。 途中で止めることができないんです。 酩酊するまで飲んで、お金があればタクシーで帰り、時にはサウナやカプセルに泊まりました。 でも、飲むにはお金も要ります。 僕は親が甘くて、お金をもらい続けました。 のちには、家に置いてあるお金を抜いて、飲みました。 酒を止めようと思ったことはないです。 ただ、楽しかった時期は最初の1、2年で、それからはかなりの量を飲まないと酔えないんですよ。 酔えなければ素面の自分と同じですから、バーに行っても楽しくない。 常連さんとも気楽にしゃべれない。 ある点を越えて、やっと酔えて、はじける感じ。 自分としても、そこまで行かないと、飲んでいる甲斐がないというか、途中で止めることができなくなりました。 酔いの中でいくつか出会いもありましたが、でも、そういう出会いは、素面になれば長続きしないですよね。 さすがに、こんなことばかりしていられないと思って、25歳のときに、ある資格をとろうと、地方の大学に再入学して、そちらに移りました。 そんな町にも何軒かゲイバーがあって、そこで毎日、飲みました。 地方は閉店時間も早いので、酔って帰って、さらに家で飲みなおし。 意識が朦朧として布団に倒れこむ毎日で、大学もよく休む。 長期休みには東京に帰って、昼間は元のバイト先でバイトし、夜は2丁目を飲み歩きました。 それでも、単位を落とさない程度には大学へ出て卒業し、資格もとって、大学のある土地でそのまま就職しました。 夜勤もある仕事だったので、勤務時間につれて飲む時間もめちゃくちゃ。 夜中帰れば、夜中に飲み、朝帰ってくれば、朝飲む。 仕事以外の時間は、飲んでいるか、寝ているか。 職場では、すごい酒飲みだとは知られていましたが、飲んでからんだり暴れたりしなかったので、見過ごされていました。 アルコール依存症という言葉は知っていました。 専門家が使うチェックリストを自分で試してみたら、まともにやると立派なアルコール依存症なんですが、これはたまにだな、これはしょっちゅうじゃない、そうやって消していって、まだ大丈夫だと安心したり。 自分が依存だとは認められないというか、自分は酒が強くて、仕事もできているんだからいいんだ、と思っていました。 なぜ、飲み続けたのか。 飲むのが当たり前で、なにがあったから飲もう、ではなく、歯を磨くのと同じように、毎日飲むのが当たり前。 飲み始めたら、酩酊するまで飲み続けました。 酔うと気が大きくなって、泥酔しながら車を運転したり。 でも、すごい孤独感が襲ってきて、家で飲みながら独りで泣いていることもありましたし、ゲイバーでは、他の客がいなくなると酒のあおり方がひどくなって、マスターを相手に泣いて、誰も自分を愛してくれないと、かきくどくこともありました。 仕事も3年目、鬱状態がおこってきました。 猛烈な不安感。 当たり前にできていた仕事が、できないんじゃないかという恐怖感。 それから不眠症… 通院をして、抗鬱剤も飲みました。 もちろん、薬を飲みながら酒を飲むのはタブーだけれど、医者に訊いたら、晩酌程度ならというので、その言葉に勇気付けられて、はじめこそセーブしていましたが、あっという間に元の量。 まともに仕事ができなくなって、診断書を書いてもらって休職。 最後は退職勧告されて、本当ならば首かもしれませんが、仕事を失いました。 鬱の状態は良くならない。 酒量も飲み方も変わらない。 週末は東京に出て、飲み続ける。 飲んでいる間は、多少、鬱的な気分も緩和されてたんでしょう。 でも、そのころから手の震えも出て、やがては寝小便、失禁したりもするようになりました。 しかし、そこまで行っても、僕はまだ自分がアルコール依存症だとは認められないんですね。 親は僕が酒に溺れていることについては、お酒の問題よりも、鬱で仕事ができないことの方が心配だったみたいでした。 そのうえ、僕がゲイだということは話してあったので、せめてお酒の楽しみぐらいはそのままにしてあげたい、と思ったようで、黙ってお金を渡し続けてくれました。 でも、僕がまさかそれほど飲んでいるとは思わなかった。 やがて東京へ戻り、することがないので、昼は3時ぐらいからやっているゲイバーで飲み始め、夜中まで梯子して、帰ってきたら昼過ぎまで寝て、食事したら、また飲みに出るの繰り返しでした。 東京へ戻ってきて、鬱の医者を探そうと思って、近所のメンタルクリニックに飛び込みでかかりました。 そのとき、僕が飲んでいる話はしなかったのですが、その半年後、アルコール性肝炎を発症して、医者はもしかしてと思ったのでしょう、ストレスをお酒で解消してはだめだ、生活を立て直しなさい、自分を大切にしなさい、と診察のなかで言いました。 彼はもともとアルコール依存症治療を専門とする勤務医として活動し、その後開業したお医者さんでした。 1年後、またも肝炎になったときに彼が、あなたの体はお酒を受け付けない、もう飲まないほうがいい、と言われ、家に帰って考えました。 肝臓の数値が戻って飲めるはずなのに、身体が受け付けないと言われたのは、もうアルコール依存症でしかない。翌週の診察時 「僕、アルコール依存症ですか?」 と聞いたら、彼が 「自分でそう思って、なんとかしたいと思うなら、紹介できるところがある」 と言って、あるリハビリ施設を紹介されました。 自分はなぜ仕事ができなくなったのか。 仕事の意欲もなくなったのか。 日々の生活がめちゃくちゃになったのか。 それもこれも、みんなお酒のせいだという思いがめばえ、これをなんとかしなくちゃいけない、と思いました。 36歳のときでした。 20歳から15年間、毎日飲み続けて、やっと訪れた転機でした。 それから5ヶ月通うことになった施設は、午前と午後、1回づつミーティングをやり、夜はAAのミーティングに出かけ、1日3回の話合いがありました。 お酒に対する未練はあったし、自分はアルコール依存なんだと、すんなり認められたわけではありません。 ミーティングで、お酒のために家族も家もなくし、身体もぼろぼろにした仲間の経験を聞くと、自分はそれほどじゃない、自分は軽いと思いました。 でも、アルコール依存に重いも軽いもない、依存したか、しなかったかです。 ミーティングではじめのうちは、なかなか自分のしてきたことを話せませんでした。 他人の話を聞くだけ。そのうち他人の話のなかに、ああ、それ自分でもやった、飲酒運転、失禁、途中で止められなくて酩酊するまで飲むこと… 自分の過去に言葉が与えられていきました。 そして、自分は家族も家も失わなかったけれど、それは家族が経済的に支えてくれたからで、一人暮らしだったら完全に破綻した。 サラ金から借りたか、親からもらったかの違いで、同じなんだと、やっと認められてきました。 自分は本当にアルコール依存で、それは自分の力ではどうすることもできない。 飲み続け、人を傷つけ、自分を傷つけてきた過去は、自分の力ではどうしようもない。 せめて同じような仲間が集まるミーティングの中で、自分が変われることを、少しづつ祈るような気持ちになっていきました。 AAの活動の中で個人的にも信頼できる人に、自分のスポンサー、先輩役をお願いします。 僕がスポンサーをお願いしたの人は、ノンケの人でしたが、僕がゲイだということも理解して、本当に親身に相談にのってくれました。 また、リハビリ施設の所長さんも、僕のためにAAの中で活動していたゲイ・レズビアン特別ミーティングを探してくれました。 いろいろなところに通って話し、自分のこれまでを棚卸しする中で、特にスポンサーとの関係の中で僕は独りぼっちじゃないという思い、人に対する信頼感がはじめて得られました。 僕の中には、人に対する根強い不信感や孤独感があったと思います。 ゲイだからアルコール依存になりやすかどうかはわかりませんが、社会に自分の本来の姿を隠すことで、孤独感を感じやすいかもしれません。 それをお酒で解消しようとして、適量の飲み方ができれば問題ないけど、僕みたいにアルコールにつかまりやすい人がお酒にたよると… 今は一滴も飲みません。 一杯だけなら、と言われますが、今日は一杯ですんでも、明日も一杯だけ、明後日も…で、きっとすぐもとにもどるでしょう。 その先には、健康破壊、事故、経済破綻…いずれにしろ死ぬしかないのです。 自分は節酒できない、アルコールに関しては無力だと認めることが回復への第一歩です。 一時は、これからゲイとしての出会いやゲイライフは諦めなくちゃいけないと思いました。 アルコール依存の僕にとって、ゲイバーだけが唯一の出会いの場でしたから。 今はかならずしもそうじゃない、違うかたちで出会うこともあるし、パートナーシップを持つこともあるかな、と思っています。 でも、それも全て大きな力によって、どこかで「用意されている」んじゃないか――AAと出会え、そのとき、なぜか僕の中で、変わろうという気持ちがわいたのも、なにか大きな力があった気がします。 今はAAの仲間を大切にして、今日一日だけは飲まない。 そうやって生きる日々が続けられることを願っています。』 これからも、ブログにメンバーの体験談を掲載します。 なお、体験談はすべて個人の体験/意見であり、AA全体を代表する意見でも、AAセクシュアルマイノリティのグループを代表する意見でもありません(AAメンバーの話はすべてそうです)。 ブログではメンバーの体験談に対する、みなさんのご意見/ご感想をお待ちしています。 TrackbackやCommentsを自由に書き込んでください。
by aa-sekumi
| 2009-03-07 14:41
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AA(アルコホーリクス・アノニマス)のプログラムを用いてセクシュアルマイノリティにアルコール依存症についてのメッセージを運ぶグループの連絡/情報ブログです by aa-sekumi カテゴリ
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