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一人のセクシュアル・マイノリティのメンバーの経験です。

30数年間にわたってアルコールに依存し,『アルコール依存症』と診断されて
から20余年後の4年前にいわゆる底をついた.ステップ1「アルコールに
対し無力であり,思い通りに生きていけなくなったことを認めた」のであるが,
自分の場合は逆に最初から「思い通りに生きていけなかったから,アルコール
に対して無力になった」という感じがあった.

 子どもの頃から,友達付き合いを好まない子どもであると同時に,自分は他
の子たちとはどこか違う,という漠然とした思いがあった.成長するにつれて,
自分の考えている事やしようとしている事が,周囲の大人たちに否定されるよう
になって,ますますその念は強くなった.世間や社会を敵に回しているような
孤立感の中,自分の人生にあまり期待が持てない虚無的な感情に襲われた.

また,多分多少過保護であったのであろう父親が,自分の人生のレールを敷き
始 め,本人の意志は押さえつけられるという状況に至り,虚無感から一種の絶
望に似た気持ちにエスカレートしていった.

 そんな諦めにも似た投げやりな気持ちで人生を歩んでいくために,自分にと
ってお酒はなくてはならないものだった.飲めば何となく気分が高揚し,何か
やる気にも似た気持ちを与えられたし,苦手だった他人との付き合いを始め,
やりたくもない勉強や仕事においてもそれなりの成果を残す事ができた.言い
換えれば,人間関係も仕事も勉強も,趣味や遊びや恋愛さえもお酒の力を借り
てやってきた.お酒がなければ何もできない人間だった.

だから,『アルコール依存症』と診断を受けたときに,一生病気と仲良く付き合い
ながら,飲み続けていく決心をした.当然の事である.

 お酒の問題とは別に自分にはかなり強い対人依存の傾向があったし,また
お酒の問題が進んでいくと今度は病院に依存した.依存の対象を,時にはお酒,
時には他人,時には病院,と器用に取り替えながら長い『隠れアル中』時代を
過ごしてきたが,当然の事ながらその間も病気は確実に進行し,ついに底を着く
日が来た.本人の精神状態が破綻をきたす寸前まで来ている事に気がついたの
である.そして初めて,「お酒をやめなければならない」のではなく「お酒をやめ
たい」と思った.

 それまでつながっていた精神病院を追い出され,たどり着いたアルコール専門
病院で,自分の場合は『アルコール依存症』の原因として『性同一性障害』がある
との診断を受けた.最初は理解できなかった.それは『性同一性障害』に対する
一般的に最も多い誤解,『性同一障害者=同性愛者』という偏見を自分も持って
いたためである.

自分には同性愛の経験はないし,恋愛対象はいつも女性だったし,女性と2度
結婚して子どもも1人いるのだからそんな事はない,と思った.しかしながら,
『性同一性障害』がいわゆる同性愛の問題とは無関係であること,『心の性
(gender)』と『身体の性(sex)』が異なるために自らの肉体に関して違和感を
感じる障害であることを理解するにつれ,自分の子ども時代からの生きづらさ,
思春期からのどうにもやりきれなかった虚無感・喪失感・寂寞感の謎が氷解し
ていくような感じがした.(ここで,弁明しておきますが,自分は決して同性愛者
と混同される事を嫌がったり,あるいはゲイやレズビアンの仲間を差別したり
しようとしている訳ではありませんので,誤解なさらないでください),

 アルコールの問題については,それまで「お酒だけは一生止めない」と固く決心
していた人間が初めて「お酒を止めたい」と思った訳であるから,「止め方が
わからない」のは当然である.それで,「止めている人間の真似をすれば何とか
なるのではないか」という発想で AAにつながり,ミーティング通いを始めること
になる.

最初の3ヵ月で自分なりに何とかステップ1~3を消化したと思った時点で男性
の仲間に最初のスポンサーについてもらい,6ヵ月目からステップ4の棚卸しを
始め,1年目のバースデーを迎える直前にステップ5を終えた.そして2年目,
ステップ6に進もうとして,「性格上の欠点全部を,神に取り除いてもらう準備
が」全然整っていない事に気付いて愕然とする.これは,自分自身のもうひと
つの問題,セクシュアリティにおける『性同一性障害』の問題を棚上げしてし
まっていたからである.

その事に気付かせてもらい, AAでカミングアウトを行ってからは,飲酒の問題,
セクシュアリティの問題ともに分かち合いを得られ,生きて行くのが非常に楽に
なったような気がする.

さらに3年目,ステップ7のハードルが高く,これは自分自身が謙虚になれない
ためであることは解っているのだが,またステップ3に逆戻りする中,新たに
セクシュアル・マイノリティ・ミーティングへの参加と専門クリニックにおける
カウンセリング受診を開始した.4年目の今年は,1年のカウンセリングの後,
身体的治療を開始することになり,月2回のホルモン療法を受けている.

 自分の人生にとって最大のキーワードは『自由』なのであるが,AAにつなが
った当初に,お酒で自分が失って来たのが自分が最も欲しかったはずの『自由』
であった事に気付き,これからは自分のやりたい事だけをやって,やりたくな
い事を無理にやらない生き方をして行きたいと思った.

また,お酒に限らずいろいろなアディクションが実は自分を不自由にしていた
事に気づくとともに,自分に必要なものと不必要なものを見分けることができ
るようになって来たような気がする.自分が好きな AAの考え方の中に,「神様
は不必要なものは与えてくださらないが,必要なものは全て与えて下さる」という
のがあって,実際に自分にとっては『アルコール依存症』という病気も,
『性同一性障害』という障害も必要なものだったのだと認識するに至っている.

 アルコールに関しては,自分の意志に反して飲まないいわゆる『断酒』をし
ているという意識はまるでなく,飲酒欲求がわいて飲みたくなったら飲んでし
まうであろう自分を自覚していながら,それでも自分の自由な意思のもとに
飲まない生き方を続けていきたいと思うから,これからも AAのミーティングや
イベントに足を運び,仲間に遭い続けていきたいと思っている.

 神と仲間と AA に感謝.
by aa-sekumi | 2010-09-02 23:02